介護業界やデイサービスなどの現場で「機能訓練士」という言葉を耳にすることがありますが、実はこの「機能訓練士」という職種は、正式な国家資格でも法令上の職種でもありません。多くの場合は「機能訓練指導員(きのうくんれんしどういん)」の略称や言い間違いとして使われています。
本記事では、「機能訓練士」という言葉の意味、介護業界での実際の使われ方、そして正確な用語である「機能訓練指導員」との違いについて詳しく解説します。
「機能訓練士」という職種は正式には存在しない?
「機能訓練士」は、国家資格や公的制度の中には正式に定義されていない職種名です。厚生労働省の関連法令や通知、資格一覧などを確認しても「機能訓練士」という名称は記載されておらず、求人票や施設内での俗称的な用法にすぎません。
現場では「作業療法士」や「理学療法士」、「看護師」などが行う機能訓練に携わる職員を簡略に「機能訓練士」と呼んでしまうことがありますが、これは正式な職名ではなく、誤解を生む恐れもある表現です。
正しい用語は「機能訓練指導員」
介護保険制度の中で正式に定義されているのは「機能訓練指導員」です。これは、通所介護(デイサービス)や特別養護老人ホームなどの介護サービス事業所において、利用者の身体機能の維持・回復を目的とした機能訓練計画の作成や訓練の実施を行う専門職です。
機能訓練指導員になれる資格(2025年現在)
以下のいずれかの国家資格を有していることが要件です。
機能訓練指導員として働くためには、対象資格を有している必要があります。具体的には、以下の資格が対象とされています。
- 理学療法士(PT):身体の運動機能を回復・向上させるリハビリテーションの専門職。
- 作業療法士(OT):日常生活動作(ADL)の改善を目指した訓練の専門職。
- 言語聴覚士(ST):言語や嚥下機能の改善を支援する専門職。
- 看護職員(看護師・准看護師):利用者の健康管理と訓練指導を担う。
- 柔道整復師:筋骨格系の障害の回復を支援する専門職。
- あん摩マッサージ指圧師:筋肉や血行の改善を図る施術の専門職。
- はり師・きゅう師(一定の実務経験が必要):東洋医学を基に身体機能を改善する施術の専門職。
これらの資格を持つことで、利用者一人ひとりに適した訓練を行うための専門知識と技術を習得していると認められます。
「機能訓練士」と呼ばれる背景
「機能訓練士」という表現が使われてしまう背景には、いくつかの理由が考えられます。
- 「指導員」という言葉がやや堅苦しく、現場では「士」という語尾が馴染みやすい
- 利用者や家族に対してわかりやすく説明しようとした結果、誤って伝わる
- 求人広告や施設紹介の中で、非専門家が職種名を簡略化して表現してしまう
しかし、こうした誤用が広まることで、求職者や利用者が職種のことを誤解してしまう可能性があるため、やはり正しい「機能訓練指導員」という言葉を使う方がよいでしょう。
求人票・説明文では正確な職名を
特に求人媒体やパンフレット、施設のホームページなどで職種を紹介する際には、「機能訓練士」ではなく「機能訓練指導員」と正確に記載することが必要です。
間違って「機能訓練士」と表記している場合、厚生労働省の定める配置基準や報酬加算の要件に合致しない職種と誤解されかねません。誤解を防ぎ、職種の専門性を明確に伝えるためにも、制度上の正式名称を用いることが重要です。
逆に、求人票を見た時に「機能訓練士」として募集をしている場合には、職種への理解が乏しいことや、運営に関するコンプライアンス意識が低いことなどが透けて見えます。
まとめ
「機能訓練士」という言葉は、介護現場ではたびたび耳にしますが、正式には存在しない職種名であり、「機能訓練指導員」の誤用や略称として使われているケースがほとんどです。
実際に介護施設で機能訓練を担当する職員は、国家資格を持つ「機能訓練指導員」として法的に定義されています。
介護業界においては、制度に基づいた職種名を正しく使い、専門職の役割や責任を明確にすることが、職場の信頼性向上や正確な情報提供につながります。