TUGテストは、歩行速度、椅子からの立ち上がり、方向転換の機能を評価する方法です。カットオフ値や平均値から転倒予測などができます。
加齢や疾病で人の歩行・移動は変化します。筋力低下や股関節等の可動域低下などで歩行時の歩幅が小さくなったり、つま先が上がりにくくなったり、歩行速度が遅くなったり…。
人によっては、ただまっすぐ歩くだけならば歩ける方もいます。しかし、日常生活で行うような立ち上がり、カーブ、歩行転換、着座などの複合的な移動動作となると、歩行能力以外の機能も試されます。
今回は、介護施設、病院、リハビリテーションや機能訓練、地域の健康教室など、様々な場面で移動能力の確認に使われ、ADLの評価や転倒予測にも応用できるTUG検査を紹介します。
Timed Up and Go Test(TUG)の目的・意義
TUGテストは、歩行速度、椅子からの立ち上がり、方向転換の機能を評価するテストです。ADLの評価や転倒予測に用いた文献も多く、応用して参考値として利用できます。
目的としては、歩行と立ち座り方向転換という一連の動作を行ってもらい、その時間測定と歩行状態を観察するということが一つです。
例えば、小刻み歩行や失調症状によるワイドベースな歩行など歩行・動作の特徴なども観察できます。高齢者における転倒ハイリスク者の選定に有用な評価指標とされています。
Timed Up and Go Test(TUG)の測定方法
- 椅子に深く座り、背筋を伸ばした状態で肘かけがある椅子では肘かけに手をおいた状態、肘かけがない椅子では手を膝の上においた状態からスタート
- 無理のない早さで歩き3m先の目印へ
- 目印・目標物を回って椅子に戻ってくる
- 椅子に着座する
- 終了時間はスタート前の姿勢に戻った時点とする。
杖・歩行器・シルバーカーを使用するときの考え方
杖を使用している場合は、使用も可とする場合が多いです。(定期的に再現して変化を観察する場合は同じ条件で行う)
ただし、杖なしでの歩行も測定して、杖の有無とその測定値がそれぞれわかるようにしておいた方が後々に比較やデータの考察がしやすいと思います。
歩行器を使用しないと歩行できない場合は、それだけで転倒リスクが高いということがわかるため、TUGテスト以外の評価バッテリーも検査測定する方が適切かもしれません。
TUGのカットオフ値・平均・基準値・リスク予測
一般的には、普通に歩いたときに13.5 秒や15秒以上がカットオフ値とされ、転倒リスクが高い分類とされています。
日本整形外科学会の運動器不安定症とロコモティブシンドロームの紹介をしています。
その中で、以下の運動器不安定症の診断基準を公開しています。
機能評価基準
1 日常生活自立度判定基準ランクJまたはAに相当
2 運動機能:1)または2)
- 開眼片脚起立時:15秒未満
- 3m timed up-and-go(TUG)テスト:11秒以上
また、その診断基準であるTUGテストの意義とカットオフ値の信頼性について以下のように述べています。
運動機能検査値の意義
3m Timed up and go test (3mTUG)
坂田による調査(2007)によりますと、3mTUGも加齢とともに遅くなり、70歳では平均9秒程度、80歳では11秒を超すという結果でした。
10秒未満の者は自立歩行、11~19秒では移動がほぼ自立、20~29秒は歩行が不安定、30秒以上は歩行障害あり、と指摘されています。
運動器不安定症と診断される11秒というカットオフ値は、完全な自立歩行ではない者を抽出する値であり、早期発見と言う観点からも妥当なものと考えています。
75歳以上の自立した高齢者を対象とした調査
- TUGが17秒以上は、3年後の基本的ADL低下リスク因子
- TUGが14秒以上は、IADL低下リスク因子
最大努力のTUGテストカットオフ値とリスク予測
TUGテストを普通の速さで歩くような設定にした場合は、その時の気の持ちようで速さが変わり、再び測定したときに前回値が参考にならないことがあります。
そのため、変化を追っていくときには、最大努力で歩いた時のタイムも測定しておくと良いと言われています。
TUGテストのできるだけ早くあるくという条件設定で8.5秒以上では約 20%が転倒経験者、TUGテストで7.0秒以下では約10%が転倒経験者という統計が出ており、8.5秒以上の5人に1人は転んだことがあるという結果になっています。
TUGテストをしてどう活かすか
歩行の評価・測定には、例えば5mや10mの歩行速度計測が用いられています。
これはただ歩くために歩くという性質ですが、TUGテストで課せられているのは複合的な動作です。
人が生活していく中では、周囲や足元の環境によって調整することや、目的を遂行するためにいくつかの動作を同時進行したりすることを求められます。
複合的な動きを観察することで、視覚的にも転倒リスクになりそうなところや動作に困難が生じているところが見えてきます。
また、タイムを測定しておき、定期的に再現して測定することで改善や増悪の具合を把握することができます。
大規模な健康教室や体力測定においては、転倒ハイリスクをスクリーニング的に抽出できます。
例えば、体力測定などでTUGテストを行い、15秒以上の方を選出して、予防的介入を行うことで将来の転倒やADL低下リスクを軽減できます。
TUGテストがすべてではないですが、高齢者分野やリハビリテーション分野で最も多く活用され、手軽にスクリーニングでき、国内外に検証文献も多いので活用してみてください。
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